鏡を見ると、左目に変な物が入っていました。
「蛸の目を代わりに入れました」彼はそう言いました。

 私はピロポロの選手なのですが、先日事故で左目にひどい傷を負ってしまいました。左目を失う事は免れ得ず、選手生命もこれで終わりかと嘆いていた折、知人のつてで、眼球細胞を培養して修復する事ができるという学者を紹介してもらったのです。
 この日は左目を四月朔日某という学者に預ける為に摘出してもらうところでした。

 私は彼を問い詰めました。
「左目の視神経を使わないままだと、目を戻した後にまた慣れるのに大変ですから」と答える彼。
「だからってなぜ蛸の目などを」
「網膜や角膜の構造が人の目によく似てるんですよ、蛸の目は。あいにく今人の目のスペアが無いもので」
(じゃ、いつならあるんだ)などと思いましたが、結局彼に左目を治してもらうにはこうするしかないのかと観念しました。とにかく蛸の左目でも物を見ることはできたので、彼の腕は確かかと思われました。
 「一ヶ月後には左目は元通りになるでしょう。ちなみにこれが目の蛸です」
 彼は傍らの水槽を指し示しました。虚ろな片目の蛸がいました。それを見る私の左目も虚ろだった事でしょう。

 蛸の目は見る物に焦点を合わせる方法が人の目と違うそうで、左目の使い方に慣れるのには少々時間がかかりましたが、そのうち試合するのにも支障がなくなりました。異様な瞳を隠す為にサングラスは欠かせませんでしたが。

続きはまた

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